発酵について

 -魅せられたきっかけ

私が日本食・発酵の魅力を感じたのは幼少期の体験がきっかけでした。1990年代にドイツ・イギリスで9年間を過ごし、母の作る自然食が注目を浴びる機会がありました。特に自宅でゲストをもてなす際の会席料理は、味覚だけではなく視覚や嗅覚でも愉しむことができ、それを食したゲストの興奮した様子は今でも忘れられず、当時から日本食の魅力を感じるようになりました。しかし当時はベジタリアン向けのオーガニック食材は進んでいましたが、日本食材の取り扱いは少なく、手に入っても不定期入荷で価格も定価の3倍。国産の日本食材を揃えることさえなかなか難しい環境でした。

 -海外の友人に日本食を披露した体験

日本帰国後は、海外では手に入らなかった食材を活用して料理好きな母から日本食を教わりました。
大学時代にはイギリス留学先の寮のキッチンをかりて、世界各国からきた学生達に日本食を作る機会に恵まれました。ハイカロリーな食に飽きてきた友人達に、手に入ったかつお節と昆布で出汁をとって炊き込みご飯や味噌汁など簡単な日本食を振る舞ったところ、その反応は想像以上。それは幼少の頃の思い出と変わらず、改めて日本食の魅力とその可能性を感じる貴重な経験となりました。
 

-自身の体調を壊したことから食生活を見直し

社会人となり、海外から来る方へ日本の魅力をもっと伝えたいとの思いからあるサービス業に就きますが、私生活では忙しさから自身の食生活が偏り、全身に不調が表れるようになりました。薬ではなかなか改善しなかったため、食生活を見直そうと母から教わった自然食に少しずつ変えてみました。手作りの発酵食品は手間と時間がかかるかと思われますが、休日に材料を混ぜて仕込んでおくだけでいつでもすぐに食べられる想像より手軽で便利なもの。継続しながら体質が改善していくことを身を以て実感し、その理由をもっと深く学びたいと思うようになりました。

-大切な家族のために発酵手作りを開始

その後大切な家族の病気を機に、専門的に学ぶために資格の取得、様々な発酵食品の手作りを開始しました。市販の発酵食品も勿論便利で美味しいのですが、手作りすることでより効能を学べて、生きた料理により愛着が沸くと考えたためです。自分だけではなく実際に発酵食を毎日取り入れたことによる家族の体調改善も目の当たりにしたことで、世の中にもっと発酵のパワーが広められないかと考えるようになりました。

-「発酵」とは

微生物の代謝によって有機物が分解され変化した物質が生成されること。「発酵食品」とはそれにより食材の味や栄養価が高められたものです。様々な種類がある発酵菌の中でも「麹菌」は日本にしか存在しないカビの一種、2006年に「国菌」に認定され日本の発酵食品になくてはならない存在です。「麹菌」は、味噌・醤油・みりん・酒・鰹節など和食の味を決めるため日本の発酵文化を大きく支えています。


《発酵の五大効果》

①栄養価がアップ!

発酵の過程で酵素やアミノ酸、ビタミン類などが加わり、発効前より栄養価が増します。ガンの抑制や成人病予防などにも効果があることが研究で明らかとなっています。


②美味しさがアップ!

発酵菌により付加されるアミノ酸や糖の「うまみ」「あまみ」「香り」により味わい豊かになります。


③吸収率がアップ!

発酵により微生物がつくる酵素により、たんぱく質やでんぷんが分解されると栄養素が吸収されやすくなり、胃腸の負担も軽減してくれます。


④腸内環境改善!

発酵食品には、食物繊維やオリゴ糖など腸の善玉菌のエサとなるものがふんだんに含まれているので、腸内環境をきれいに整えてくれます。


⑤保存性がアップ!

微生物には自分以外の微生物の生育を阻止または死滅させる作用があるため、ある一定量を占めると腐敗菌が駆遂され腐りにくくなります。

この様に、微生物の働きによって有益な効果をもたらすことがわかりますね。腸内環境を整えることは、生活習慣病やガンの予防、免疫力向上、便秘改善、アンチエイジングなど身体にうれしい効果ばかりなのです。

《発酵は継続がカギ!》

手軽に便利に食べ物が手に入り、食生活の偏りが問題となる一方で、近年コロナ禍で健康の見直しから免疫力が高まる発酵に改めて注目が高まっふているのは嬉しい傾向です。先行き不安で癒しのニーズが高まるとき、安心感と温もりを求め発酵食品とその手作りのブームがやってきます。


東日本大震災が起こった2011年も塩麹が広まり、安全安心な食品を口にしたいというニーズに合わせて、その後も甘酒やぬか漬けなどの手軽に始められる手作りキッドや発酵食品の種類も一気に増えてまいりました。


一般的に体内に取り込んだ菌は、約48時間ほどで排出されると言われています。腸内環境を良くするためには、日頃から継続して発酵食品を取り入れて良い菌をお腹にとどめていくことが大切になるわけです。


こちらでは「発酵」を一過性のブームではなく日常に取り入れてほしいという思いから様々な角度からの楽しみ方をご紹介させていただきます。


《発酵とSDGs》

《発酵は日本古来の伝統文化》

私たち日本人は昔から発酵食とともに暮らしてきました。日本は温暖湿潤な気候で発酵に適した環境に恵まれ、さらに島国で食材が限られていたために保存や備蓄の知恵が古来より備わってきました。


「発酵」は素材そのもののうま味を活かしながら保存性をあげることはもちろん、食材を無駄にしないことから冷蔵技術が発達した現代においてもエコロジーなお手本になるといえます。先人の知恵と努力が詰まった日本人の慣れ親しんだ尊い文化です。

《発酵の今後の可能性》

一番身近に感じる食以外にも、発酵による作用は土壌改良、家畜産業、水質浄化などの環境を浄化する発酵産業技術に活用され、日々最新の技術が研究開発されています。
例えば「納豆菌」のポリグルタミン酸は保水力が優れ、医薬品やコスメにも応用されています。その他にも保水材、樹脂などが開発されていると同時に、水質汚染の原因であるヘドロなどを浄化させ、井戸の水質浄化や砂漠の緑化計画などに活用されています。人にも環境にも優しい「発酵の力」は古来から未来へと繋がれた日本の誇るべき伝統文化であります。
こちらでは「発酵食」から食品ロス解消に取り組むとともに、発酵文化を身近な形で継承することで、次世代にその魅力を少しでも伝えられたらと思います。